2015年6月第一週
第21回:値決めは経営(経営の原点12か条の第6条)
稲盛は、「値決めはトップの仕事、お客様も喜び、自分も儲かるポイントは一点である」といいます。かつて、京セラの役員を登用するとき、登用試験として「夜鳴きうどん屋の経営」を任せることを真剣に考えたこともあったといいます。
ラーメン屋の屋台の設備が買えるくらいの資金を役員候補に渡し、彼らに商売をさせてみて、何ヵ月後かに資金をどれだけ増やして帰ってくるか、それを競わせるというものです。経営の極意は、ラーメン屋にあると考えたわけです。そのようなことで、稲盛は、経営とは何かをわかりやすく説明するのによくラーメン屋経営を例に出して説明しますのでここに紹介します。
チャーシューメン(焼豚麺)を出すとすれば、スープは鶏ガラなのか豚骨なのか、麺は、機械打ちか手打ちか、さらに焼き豚は何枚のせるか、もやしをのせるのかなど、たくさんの選択肢があります。つまり、ラーメン一杯といえ、千差万別、経営する人によって全く違ったものになっていくのであります。また、次には、そのラーメンの屋台を、どこにおき、いつ営業するのかという問題があります。繁華街で酔っ払い客を狙うのか、学生街で若者をターゲットとするのか、全てその人の才覚が現れるのであります。
そしてそのような諸条件を全て決定して、その上に値決めがあるわけです。学生街で商売をしようとする人は、売値を抑えて数をたくさん売ろうとするでしょうし、繁華街では高くてもおいしい高級感溢れるラーメンにして、数は少なくとも利益が出るようにしようという人もいるでしょう。つまり、ラーメン屋の商売には、経営のさまざまな要素が凝縮しており、その値決めひとつで、経営の才覚があるかどうかを見ることが出来るのであります。
かつては、私たちのISO研修業務、コンサルティング業務、審査登録(認証)業務は、一般メーカーと同じ様に、原価主義、即ち原価プラス利益で売価を決めるということが行われてきましたが、市場競争が際限なく続くこのような業界では、原価に利益を積み上げた価格では競争に勝てないため、値引きして売ることになってしまい、利益が吹っ飛んで赤字経営となっていきます。それを避けるためには、直ちに、「値決め」と「仕入れ」、また、「製造・サービスのコストダウン」が連動していかなければなりません。与えられた要件を全て満たす範囲で、製品・サービスを最も低いコストで提供できる努力を、徹底して行うことが不可欠です。
一般的には、信用できる組織で提供する品質・サービスが、ある一定の基準を満たしておれば、市場で提供する価格が大きな影響力を持つことになりますので、よいものをできるだけ安い価格で提供できれば、市場を席巻できることになります。結局経営においては、値決めは、お客様の信用と同じくらい大事な経営の要素なのです。