2015年9月第二週
第34回:性善説と性悪説の本質を理解して幸福な人生を送ろう
ISOのマネジメントの世界では、性善説と性悪説のたとえがよく引用されて議論される場合があります。
孔子の教えに代表される儒家の徳治思想は「性善説」に基づいているといわれています。
孔子は、支配者の仁徳によって民を導きよい政治を行うことの重要性を説き、君主とはどうあるべきか、祭りごと(政治、マネジメント)はどう行うべきかとの理想像を説き続けました。
人間が本来持っている本能的な部分を押さえて、修養することで立派な指導者となり民を導くことができ、よりよき政治を行うことが出来ると説いています。
孔子自身もまた、まさに温故知新すなわち、孔子に先立つこと1000年前の古代中国の聖人君子といわれた周王朝の堯(ぎょ)や舜(しゅん)の為政者から多くを学んでいます。
これらの聖人は、徳治思想を持って理想の政治を行い古代中国の聖人としてあがめられています。
孔子が生きた春秋時代には、周王朝は崩壊し、小国家に分裂して理想とした政治が行われなくなった時代でした。
その後、紀元前3世紀ごろは、国が乱れに乱れ乱世の戦国時代となりました。
この戦国時代の当時の思想家、韓非は、その著「韓非子」で人間の本質は悪であり、部下の言うことを安易に信じることなく必ず照合し、実績によって賞罰を明確にして信賞必罰主義で民を治めるべきだと説きました。
乱世の中、中国を統一した秦の始皇帝は、韓非の思想を取り入れ、徳治思想を追いやり、賞罰を明確にした法律を国中に行き渡らせ、官僚組織を末端まで活用して独裁的で厳しい政治を行いました。
徳治思想を持つ儒家を徹底的に弾圧し、「焚書坑儒」(ふんしょこうじゅ)といって墨家・儒教にかかわる書物を人民から没収し焼き払ったのです。
しかしながらこの極端な「性悪説」に基づく独裁的な政治は、結果的にはわずか、始皇帝の死によりわずか15年間で崩壊しました。皮肉にも、現代の中国政権は、2200年前の秦の始皇帝と同じく、焚書坑儒に値する「言論の弾圧」を行なっており、世界の民主国家・人権団体から批判されています。
現在、世界の多くの先進国は、基本的には、民主主義の法治国家です。一方的な法治でなく民衆が参加した法治国家で「法」に基づく政治が主流です。しかしながら、人間集団を持続的に統率・管理していくには、個々の人間が持つ本来の道徳(良心)を育みながら、徳治思想を取り入れた組織のあり方がなければなりません。
即ち、極端な「性悪説」に基づくのではなく、徳をベースとした「性善説」も取り入れてバランスを保たないと長続きしないと思います。
国際規格ISO9001は、いいものを製造・提供する方法・規則を定め、手順をつくりそのとおり運営していくことを要求しています。運用に当たっては、極端に走るのではなく、「性悪説と性善説」のバランスをいかにとるのかが重要であると思います。
一見、どっちつかずのようにも取れますが、すべての事象で社会そのものが、白、黒と明確に線引きされているわけではありません。仕方なく線引きしているケースも数多く存在しますので経営にもバランスが必要だと私は思っています。