自主公開プログラム

2023年8月2日

2.「マネジメント」の本質

   第 1 回のコラムで書いたように、事業の目的は、株主利益優先の考え方からマルチステークホルダーの
期待の最適化へと変わりつつあります。また VUCA の時代と言われる現代において外部環境は大きく変化し
不確かとなっています。そのような環境下で企業が目的を達成するためには、マネジメントシステムも柔軟に
進化し続ける必要があるでしょう。

   当然ながら、世界中には無数の企業があり、企業の数だけマネジメントシステムは存在します。
認証の有無自体が、マネジメントシステムの優劣をつけるものではないでしょう。では、そのような状況下に
おいて、ISO マネジメントシステム認証制度の意義は何でしょうか。私見として、ISO マネジメントシステム
認証制度の2つの主な意義を挙げたいと思います。

   1つ目は、標準との比較可能性と客観性の担保です。マネジメントシステム認証を取得するということは、
自社のマネジメントシステムを点検・強化する仕組みを導入し、点検し、外部の評価を得ることが必須になります。
標準の規格があることで、自社のシステムを網羅的に点検し、比較し、改善・強化することが可能になるでしょう。
このことは、自社内だけの仕組みでも可能だと思いますが、その場合には、どうしても主観的で閉鎖的な点検・
判断に陥ってしまう可能性があります。定期的に外部の目を受け入れ世界標準と比較することは、自社のシステム
改善・強化を考える機会として有用だと考えます。

   2つ目は、制度理論に基づく同質化効果の増大です。社会学の理論に制度理論がありますが、これは、
組織・人は認知能力の限界から合理性よりも正当性に従うという考え方にたっています。そして、正当性を
求める過程において、強制圧力・規範的圧力・模倣的圧力により組織の同質化(Isomorphism)がもたらされます。
わかりやすく言うと、ISO 認証取得(強制的圧力)により、組織員は規定プロセス通りの行動を常識と考え
(規範的圧力)、各構成員にも伝播(模倣的圧力)する効果が生じます。さらにわかりやすく言うと、「ISO 認証を
得ているプロセスなので順守があたりまえ」という風土がつくられ、組織の一体化が強まります。

   注意しなければならないのは、審査に通ることだけを注力してしまうと、自社内の仕組みの改善・強化への
意識が薄まってしまうリスクです。繰り返しになりますが、外部環境が大きく変化する中で、根本的なシステム・
プロセスに変革が無ければ、審査に通ってもステークホルダーの期待には応えられない可能性もあります。

   1つ例を挙げたいと思います。Netflix という会社は当初DVDを顧客に配送するレンタル事業でスタート
しましたが、環境の変化に対応し現在はオンデマンドでストリーミング配信のサブスクリプションサービスを
提供しています。DVD宅配とストリーミングサービスでは当然マネジメントシステムや業務プロセスは
異なるでしょう。既存のマネジメントシステムを抜本的に変えること、新たなマネジメントシステムを導入
していくことは非常に困難なことですが、企業が永続的に発展していくためには必要なプロセスとなります。
一方、ビジネスモデルおよびマネジメントシステムを変革できなかったBlockbuster という大手レンタル
ビデオチェーンは結果的に破綻しました。

   私たち認証機関においては、既存のシステムが適合しているか・有効かという視点で審査を行いますが、
認証取得企業様においては、事業の目的は何か、そして自社の仕組みが事業の目的を達成できる仕組み
になっているかという視点で、認証プロセスの機会を活用するのが良いのではないかと感じております。

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