ISOの豆知識から失敗談まで!? 或る主任審査員のつぶやき
第2回:2015年5月25日
少し前の話になるが、2015年3月2日の日経新聞の連載記事「働き方NEXT」を目にされたコンサルタント諸氏も多いかと思う。
記事はコニカミノルタ本社の社員が朝出勤して最初にすることは、その日に自分が座る席を決めること。
社内の風通しをよくして事業アイデアを引き出そうと始まった「フリーアドレス(自由席)オフィス」だと説明する。
一方、社内の交流を強制的につくるカルビー本社では、自由席は仲良し同士が集まらないよう、社員は毎日2回、パソコンの「くじ引き」で席替えをするのだそうだ。
「今は新たな市場を生み出す独創性が働き手に求められる時代で、オフィスに必要なのは「デスクとパソコン」ではなく、「社内のコミュニケーション」を誘発する職場の空間が重要」と建築家でニューオフィス推進協会会長の三栖邦博氏は指摘すると記事は伝えている。
私が初めて「コミュニケーション」を仕事と関係付けて理解したのは、皆さんも経験がお有りかもしれないが、新人社員研修で経験する「伝言ゲーム」だった。
「言ったつもり」、「聞いたつもり」「伝えたつもり」で次々に後ろの人に伝言していくが、最後には全く別の情報になってしまったりする。
如何に正確に情報を伝えることが難しいかを教える、あのゲームである。
仕事を遂行していく上で、コミュニケーションの重要性や難しさを痛感するのはもっと後、責任・権限が大きくなってからだったが。
話は変わるが、コミュニケーションの取り方についてソクラテスが語った言葉が残されているのだそうだ。
現存する最古の修辞論であるプラトンの『※パイドン』によれば、ソクラテスは「大工と話をするときは、大工の言葉を使え」と説いた。
「受け手の経験に基づいた言葉を使わなければならない。経験したことのない言葉で話しかけられても理解できない。」
私たちが審査する組織のコミュニケーションはどうだろうか。
各MSの規格要求事項に従って、組織では様々なコミュニケーションの場やツールが設定され、手順が決められている。
その他にも誰もが理解し必要な情報を共有するために、例えば4M変化点管理ボードのように解りやすく「見える化」した方法によって日常業務の中で効果的にコミュニケーションを取っている会社もある。
ソクラテスの言葉を現在の組織の優れたリーダーが実践していると言える。
しかし、そのような組織ばかりでもない。
不適合や観察事項の原因を追求していくと、コミュニケーションが機能していないことが原因の一つではないかと思うことがある。
不適合とはいわないまでも、コミュ二ケーションが十分に機能していないことによるMSの脆弱性を示す審査証拠を見出すことも多い。
組織規模の大小を問わず、扱う情報量はますます多くなっている。
情報が多くなればなるほど効果的かつ機能的なコミュ二ケーションが必要になる。
どんな情報もコミュニケーションが機能しなければただの記号に過ぎない。
最後に、ソクラテスの言葉を引用するなら、私たち審査員は適切にその業種の言葉で、謂わば、専門性に立脚したコミュニケーションがとれているか、常に自問したい。
※~P.F.ドラッカー著 エッセンシャル版マネジメント基本と原則~から引用
(風来坊)
WEB掲載日:2019年6月7日