ISOコラム

ISOの豆知識から失敗談まで!? 或る主任審査員のつぶやき

第3回:2015年7月30日

 6月のある日、蛍を観に出かけた。
多くは見られなかったが、「こっちの水もあっちの水も、世の中そんなに甘くもないぞ」とつぶやきながらも幻想的な光を楽しんだ。
「夏は夜。月の頃はさらなり。闇もなほ、蛍のおほく飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。」と清少納言が枕草子の中で風情があるものに数えた。

さてその蛍だが、世界には約2000種類。
日本にいる蛍は皆さんご存知の源氏蛍、平家蛍、ヒメホタルなど発光する8種類を含めて約50種類いるそうだ。
多いようにも思えるが、しかし環境省4次レッドリストによれば八重山諸島に生息するイリオモテボタル、コクロオバボタルが絶滅危惧種に登録されている。
国連で2001年から2005年に実施されたミレニアム生態系生態系評価では100年間で100万種あたり10~100種が絶滅。
過去100年間で記録のある哺乳類、鳥類、両生類で絶滅したと評価されたのは1万種当たりおよそ100種であり、これは、記録のないまま絶滅した種を含むと、これまでの地球史の1,000倍以上の絶滅のスピードになる。(平成27年版環境・循環型社会・生物多様性白書から)。
1年に4万種が、1日では約110種、1時間では約5種、15分に1種絶滅している計算になるらしい。
大量絶滅時代という表現も頷ける。
大量絶滅の原因は、地球温暖化、水質汚染、大気汚染、土壌汚染などの環境破壊、焼畑農法、乱開発や密猟が主だそうだ。

今の薬局で販売されている薬の約40%は草木など自然由来で人工ではないのだそうだ。
自然が破壊されると「薬が作れなくなる、食物が取れなくなる、即ち経済社会が維持できなくなる」との危機感から生物多様性条約が締結され、2010年10月に名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分(ABS:Access and Benefit-Sharing)」に関する名古屋議定書が採択された。
 ABSが注目されるようになったきっかけの例として米国の製薬企業のケースがある。
1950年代初頭の米国の製薬企業の研究員が、マダガスカル島で糖尿病治療の民間薬として伝統的に用いられてきたニチニチソウから白血球を減少させるアルカロイドを抽出。
それを基に医薬品を開発、巨額の利益を得た。
この新薬により、小児白血病の生存率が大きく上昇した。
1992年にNGOが本件を例に、遺伝資源の原産国や地域住民に利益が還元されないことは問題であると、UNEPの政府間委員会の場で報告した。(環境省HP名古屋議定書から)
生物多様性とは単純な動物愛護の精神や自然保護の観点ではなく、人間の経済社会維持のために環境を維持しつつ、得られる利益の配分を意図したものであることがよく解る。
しかし、意図がどうであれ自然と生態系が守られ維持されるなら結果的によしとするか。
 環境省のセミナーで、味噌汁の具として存在感のあるアサリの貝殻の模様が全部異なると聞いて、筆者も食べた後でじっくり見た。
確かに模様は全部違っていた。
遺伝子がアサリ毎に違うからだそうで、これも生物の多様性の一例である。

 清少納言が生物の多様性が重要なテーマになった今の状況を見れば、“おかしい”というのではないか。
少なくとも“をかし”趣があるとは言わないだろう。

(風来坊)
WEB掲載日:2019年7月1日

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