ISOコラム

ISOの豆知識から失敗談まで!? 或る主任審査員のつぶやき

第4回:2015年11月11日

 このところ企業の不祥事が多発している。

 免震ゴム偽装問題や大手電機メーカーの会計不祥事も記憶に新しい。
つい先日も排ガス規制逃れの問題に関する情報が世界中を駆け巡り、激震が走ったばかりである。
そんな中、テレビや新聞報道はないので世間の耳目は集めていないが、福井市の久富産業㈱が製作した落橋防止装置等の溶接不良問題が持ち上がった。

 2015年9月28日付けで国土交通省道路情報管理部から橋梁工事施工実績を有する全国の建設会社に、久富産業が製作した製品を使用した橋梁を特定する確認調査要請書が届いた。
その要請書は当該製品を使用し、施工した元請会社A社の不十分な品質管理、製作会社のガウジングの省略、検査対象の不適切な抽出、超音波探傷試験を実施した検査機関Bの不正な行為等がこの溶接不良の要因と断じている。
調査が該当製品の使用の有無だけにとどまらず、国交省が発注した橋梁工事を施工した元請会社の溶接検査抽出率の考え方や溶接検査における立会の有無、立会時の品質確認手法(ランダム抽出等)を踏まえた品質管理体制や品質マネジメントシステムについての項目があるところから、審査員としても気になるところである。
しかし、一体どのような理由でこのような不祥事が起きるのであろうか。
もしかしたら理由(その内の一つかもしれない)が解るかも知れない研究がある。
今年もノーベル賞が発表される時期になったが、2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは、「行動経済学」という新たな経済学の分野を開拓したことが評価された。

 この行動経済学はその後、いろんな人達によって研究が進められ出版物も多いが、企業の不祥事の原因はこんなところにあるかと頷ける本がある。
ダン・アリーはその著書「ずる 嘘とごまかしの経済学」で、『ごまかしをする人が自分と同じ社会集団に属しているとき、私たちはその人を自分と重ね合わせ、ごまかしが社会的により受け容れられやすくなったと感じる。
だが、ごまかしをする人がよそ者だと、自分の不品行を正当化しにくくなり、その不道徳な人物や、その人が属する他の(ずっと道徳性の低い)外集団から距離を置きたいという願望から、却って倫理性を高める。
一般的には、私たちが自分の行動(ごまかしを含む)の許容範囲を決める上で、他人の存在がとても重要であることを様々な実験の結果が示している。
私たちは自分と同じ社会集団の誰かが許容範囲を逸脱した行動をとるのを見ると、それに合わせて自分の道徳的指針を微調整し、彼らの行動を模範として取り入れるだろう。
その集団の誰かが権威のある人物(親、上司、教師、その他尊敬する人)であれば、引きずられる可能性は更に高くなる。』と述べ、更に『自分の不正によってチームメンバーが利益を得る状況ではごまかしを増すが、一方メンバーから直接監視されることには不正を減らす効果がある。
この相反する力のどちらが強いか。集団内のおしゃべりや話し合いは協働の重要かつ欠かせない一部である。監視者とメンバーの間に、この重要な社会的要素であるおしゃべりを加えると、利他的なごまかしが監視効果を圧倒するという結果が出た。』と述べている。
つまりは不正を見逃す、若しくは助長する馴れ合いが生じたということであろう。

 歴代の社長が無理やり当期利益を確保するような指示を出したり、検査データを改竄したり、不正を隠蔽したりというのは将にこのとおりの現象に思われる。

 組織内の上司と部下、組織と供給者、審査員と被審査組織(の担当者)、審査員とコンサルタント・・・・・それぞれの関係は、『かくあれかし。』と誰に対しても明確に言えると良いのだが。

(風来坊)
WEB掲載日:2019年7月5日

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