ISOコラム

ISOの豆知識から失敗談まで!? 或る主任審査員のつぶやき

第8回:2017年2月3日

前職時代にこんな会社と出会った。社長の要請で組織の仕組みを見直す提案を行った時のことである。
古参の幹部社員から「ウチの会社には経営コンサルタントの先生方にお世話になるような問題はありません」と皮肉交じりに言われたことがある。

財務分析から始めて営業戦略の策定、賃金体系の見直しなど5年に亘るコンサルティングの案件であった。
例えば賃金体系の見直しでは、かつて所属していた会社の労組執行委員として毎年の春闘を前に組合案をまとめる作業を経験した経験も活かせ、効率よく新体系を提示することができた。

古参社員の彼らは異口同音に、「素晴らしい新体系ができました。ありがとうございました。」
しかし案の定、彼らの口から次に出た言葉は「実施は私たちが退職する2年後からお願いしたい」であった。
わが社に問題はないと云う彼らのような存在自体が問題じゃないの?と内心思った印象は間違っていなかった。

余談だが、ある古参の幹部社員は、「先生、私は健康のために本社と工場との行き来の約1時間を歩いています。」と自慢げに話し、それに対して「あなたの時間給を考えたことがありますか?」と返事したことも覚えている。

事業や経営上の課題は、品質基準の更なる厳格化、少量多品種、短納期、低価格等々ますます顧客の要求が厳しくなっている昨今、それらに対応するための目標が高ければ高いほど、現状とのギャップが大きく、課題も多くなる。
逆に課題がないということは、目標が低く、向上心がないということだ。
目標が低ければ現状とのギャップもなくなり、課題も無いということになる。

2015年版では、組織の現状の理解がMSの前提となっていることは周知の通りだが、組織内部の状況及び組織を取り巻く外部に起因する経営環境、リスクと機会を把握したうえでMSのPDCAを展開することが求められる。

組織によっては課題山積ということもあるかもしれないが、それらについて阻害要因を挙げたら、それこそ限がない。
言い訳したら限がないのだ。
考えることは阻害要因や言い訳ではなく、どうしたら出来るかであり、それがリスクや課題に対する計画である。
組織が抱える課題には「仕方がない」では済まないことが多い筈だ。

先に述べた阻害要因そのもののような古参の幹部社員の話だが、問題意識の無さが問題であり、それは若い世代でも人によっては当てはまる。
「・・・・・だから仕方がないですね」とまるで他人事のように宣う若手も現にいるのだ。
彼らの経験の無さ、認識の無さが言わせているのか、先輩・上司の指導の拙さなのか。
いずれにせよ、ほっとけない!のである。

文藝春秋7月号の小さな囲みに、こんな内容の話が載っていた。
「北大路魯山人は自身の作品には角があり、彼が発表する批評にも、嫌われようがどうしようが角(かど)がある、と。
そして、その話を聞いたビジネスマンが、『会社員の俺と芸術家である魯山人とは違う』というような感想を持ちながらも、ある時、自社製品の不具合について、仕方がないと諦めず、部のため部下のために一言でも言うべきことは言おうと胸の中で決めた」話であった。

この話の結果は不明だが、一つ一つの積重ねが問題解決に繋がることを期待したい。

(風来坊)
WEB掲載日:2020年2月14日

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