ISOの豆知識から失敗談まで!? 或る主任審査員のつぶやき
第9回:2017年3月10日
審査に出向くと、トップマネジメントインタビューなど諸々の時間に社長さんとお話しする時間がある。
ときには審査前の雑談でも、社長さんの真剣な態度に接し、皮膚がヒリヒリするような感じを受けることがある。
社長さんが自らの経験や判断に基づいて話されることはどのような内容であっても重みが違い、迫力も違うのである。
切れ味鋭い刃物を前にしたようで、うっかり返答できないのだ。誤魔化しが利くとも思えないので、慎重に言葉を選び選びしつつお尋ねしたり、
質問にお答えしたり、のガチンコ勝負である。(社長さんは、軽輩に胸を貸しているだけのつもりかもしれないが)
前職では、企業は「環境対応業」と説明することが多かった。会社を取り巻く経営環境変化に如何に対応するかという意味において、である。
例えば、私がまだ学生だった頃の1971年8月の変動相場制度への移行(ニクソンショック)や1973年10月の第4次中東戦争を発端とするオイルショック。
そして1985年のプラザ合意による円高不況、1990年中盤からのバブル経済の崩壊、2008年からのリーマンショック等々の企業を取り巻く経営環境の大きな変動があった。
その当時に既に会社があり、今も存続しているということは、それらの経営環境の変化に適応してきたということに他ならない。
消えてしまった会社は、経営環境の変化に適応できなかったのである。
経営環境の変化の大きさと企業の実態との差(ギャップ)が大きければ大きいほど、倒産のリスクが大きくなるということであり、私たちは、経営環境の変化に適応できなかった倒産を「ギャップ倒産」と表現したことがある。
さて、冒頭の社長さんとの話に戻るが、数々の経験を積み重ねて来られた社長さんに、審査員やコンサルタントが、
いきなり「ISOの規格はこんなことを要求しています・・・」などと言ったところで役に立つとは思えないが、会社の経営に関わる課題に対応することについては異論がある訳がない。
経営課題への対処を、MSを通じて行うことをどのように理解して戴くか。即ち「社長が仰っていること、懸念されていることは、規格のこの条項で対応するようになっています。」というような説明をすると、ご理解戴けるようだ。
事業戦略や事業ドメイン(事業領域)の変更や強化などは、事業を発展させるために多くの経営者が実践してきていることである。
2015年版では、組織の現状の理解やリスク&機会という要求事項が明確化されたが、経営環境の変化への対応の準備に他ならない。
最後に、企業が環境の変化に対応するとき、人の在り方について触れておきたい。
企業が経営環境の変化に対応するためには、様々な対策を講じることになる。事業戦略や事業ドメインの見直しなどは組織の改定につながる。
それに因って人事異動も行われるだろう。部署名は変わらなくても、有する機能が変化するかも知れない。
要するに、企業が経営環境に対応するためには、人も変わらなければならないのだ。今までは不要だった知識や技術、役割が新しい組織では要求されるかもしれない。
私は今のままで・・・・と言い続けていると、会社の目指す方向とギャップが生じてしまう。新たな道を模索する選択肢もあるかもしれないが、いずれにしても今までと異なる知識や能力が求められることに違いはない。人も環境対応業なのだ。
【参考資料】
総務省統計局の平成26年経済センサス基礎調査結果によると、全国の企業総数(株式会社、有限会社、合名・合資会社)は175万社となっています。
(参考:個人経営を含む総数は409万8千社)。日本の総人口のうち、175万人の社長さんがいるということです。(総人口の約1.5%)
(風来坊)
WEB掲載日:2020年7月9日